10月 政府管掌保険が消える 保険料率に都道府県格差
一〇月から中小企業で働く会社員とその家族を被保険者とする政府管掌健康保険(政管健保)が解体され、新たに「全国健康保険協会(通称‥協会けんぽ)」になります。全国一律の保険料を都道府県別に変え、医療費抑制を図るのがねらいです。また、保険料が上がるのも必至です。
政府は、二〇〇六年医療制度改革大綱の三本柱の一つに「超高齢社会を展望した新たな医療保険制度体系の実現」を掲げました。その中身が「後期高齢者医療制度の創設」と「都道府県ごとの保険者の再編・統合」の二つでした。これによって、政管健保が解体されます。
政府管掌保険には、約三五五〇万人(〇四年度)が加入しています。これを取り扱う社会保険庁が解体され、健康保険事業は新たにつくられる「協会けんぽ」に移管。年金事業は二〇一〇年に「日本年金機構」に移されます。
「協会けんぽ」は「国とは切り離された公法人」で、職員は「公務員ではなく民間」になります。それで「作業の効率化」などをすすめると政府は説明していますが、なによりの目的は「医療費の適正化」です。
医療費抑制のしくみ
「財政運営が都道府県単位になる」といっても、都道府県が独自の方針で運営するのではありません。あくまで国の統制下で、医療費抑制を競争させ、その結果を保険料率などに反映させる手法です。
いま保険料は全国一律(八・二%)ですが、一〇月以降、一年以内に都道府県ごとに地域の医療費を反映した保険料率を設定することとなります。
その場合、政府が説明しているように「年齢構成の高い県、医療費が高いほど保険料率が高くなり、、所得水準の低い県ほど同じ医療費でも保険料率が高くな る」わけです。政府は「年齢構成や所得水準の違いは、都道府県間で調整したうえで、地域の医療費を反映した保険料率を設定する」「移行で保険料率が大幅に 上昇する場合、激変緩和措置を講ずる」としていますが、格差ができるのは避けられません。
厚生労働省の試算では、北海道がもっとも高く、長野県が安くなる可能性が示されました。
保険料は、二年ごとに見直されます。高齢化率や医療費が上がれば、必然的に保険料が上がります。
これは後期高齢者医療制度と同じしくみで、負担を国民に押しつけ、都道府県の「自助努力」で医療費給付の抑制を図るものです。
不平等につながる
北海道では医療崩壊が急激にすすみ、かかりたくても医療機関が近くにない地域もあります。それでも高い保険料率が課せられることに。長野県には、昔から保健予防活動などに力を入れてきた地域もありますが、人口当たり医師数や病床数が全国水準以下という事情もあります。
どこに住んでいても、必要な医療にアクセスでき、保険料などの負担は経済的能力に応じて支払うのが、医療保障の本来の姿だったはず。住んでいる地域の年 齢人口構成や医療費などの事情で保険料負担に差異を付けて競わせるなど、大きな問題です。高齢者や病人が肩身の狭い思いをすることにつながりかねません。
中小企業の負担増も
いま政府管掌健康保険に加入している事業所の七五%が従業員九人以下の小さい企業です。保険料率のアップは、そうした企業の経営を圧迫します。
いま零細企業が健康保険に加入せず、労働者が国民健康保険に入っているという状況も問題化しています。それを助長しかねません。
また現行では、社会保険事務所の人件費や事務費には国庫補助(〇五年度は七九六七億円)があります。
それは政府管掌保険が、共済組合や健保組合などと比べ、加入者の標準報酬が低く(つまり給与が低い)そのため保険料収入が少ないこと、被保険者の年齢が 高く、受診率が高いこと、中小企業の経営状態が厳しいなどの理由からです。
これがどうなるかなど、不透明な部分も多く、国の責任放棄につながる恐れもあります。
後期高齢者医療制度含めリセットを
湯浅健夫・全日本民医連事務局次長
陸運大手の西濃運輸の健康保険組合が八月一日付で解散したことが報道されました(二一日)。加入者五万人超の健保組合の解散は、倒産以外で例がないと思います。解散後は政府管掌健康保険に移ります。
報道では、解散の理由が「高齢者医療制度で負担金が大幅に増え、保険料率を引き上げないと維持できず、健保組合を維持する理由がなくなった」と。後期高 齢者医療制度、政管健保の解体、企業の無責任や雇用問題などが複合的に絡んで、行き詰まりの状況を呈しています。
痛みを国民に押しつける方向での「改革」はすべてリセットして考え直すことが必要です。後期高齢者医療制度の廃止を迫り、社会保障制度改悪をやめさせていきましょう。
(民医連新聞 第1435号 2008年9月1日)